2010年9月14日火曜日
【読了】『ヒトはどうして死ぬのか -死の遺伝子の謎-』 田沼靖一

ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 (幻冬舎新書)ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 (幻冬舎新書)
田沼 靖一

幻冬舎  2010-07
売り上げランキング : 5227
おすすめ平均  

Amazonで詳しく見る

「死」について科学的に考察した、
とても分かりやすい書籍。

かつて、細胞の死は外部からの
強い衝撃などによる壊死(ネクローシス)
以外は無いと考えられていた。
しかし、1972年、病理学者J.F.カーの論文により
「細胞が自ら一定のプロセスを経て死んでいく」
アポトーシスと呼ばれる現象の存在が明らかになる。

この「遺伝子によりプログラムされた細胞の自殺
は、発表当初は殆ど注目されることはなかった。
当時は「死」について研究を行うことに、意義が
あるとは認められなかったためである。

長い年月を経て、ゲノム解析の研究が進められる中
21世紀に入って初めてアポトーシスのメカニズムが
解明され、注目を受けることになる。

アポトーシスの「細胞が自ら死んでいく」という働きは
単純に生物個体としての死に関する話だけではなく、
たとえば成長過程でヒトの体が形作られていったり、
オタマジャクシがカエルになる時にしっぽがなくなったり
というメカニズムにも関わっている。

生物が形作られる際は、
細胞を多めに作って、アポトーシスによって
不要な部分を削る
という過程を経ているということになる。

ヒトの免疫機能も同様で、免疫システムは
体内での遺伝子組み換えにより無数の免疫細胞を
作り出しているが、役目の無いものや有害な可能性の
あるものが生まれる可能性もある。
免疫細胞のうち実に95%が成熟過程で「無用、あるいは有害」
とみなされ、自殺するよう命令を受けてアポトーシスにより
除去されている。これにより健全かつ有用と思われる
免疫細胞のみを体内に残すことが可能となっている。

このように、アポトーシスは単に「死」のみならず、
それを制御することでガンやアルツハイマー、HIV
といった難病に対する新たな治療薬を発見する新しい
手法となりえる可能性を秘めている。

著者の田沼靖一氏はこの分野の研究者であり、
「死」を科学することから、「生死」に対する哲学的な
考察の助けにもなると述べている。
全体の繁栄のために遺伝子が「自ら死ぬ」というところから、
「利己的な遺伝子」を否定しているところが印象的。

新書らしく非常に読みやすいので、
ぼんやりと「生死」について考えたくなった時などに
オススメ。「死」が単に暗いものではなくなるかも。



0 コメント | コメントを書く  
Template Design: © 2007 Envy Inc.