![]() | ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 (幻冬舎新書) 田沼 靖一 幻冬舎 2010-07 売り上げランキング : 5227 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る |
「死」について科学的に考察した、
とても分かりやすい書籍。
かつて、細胞の死は外部からの
強い衝撃などによる壊死(ネクローシス)
以外は無いと考えられていた。
しかし、1972年、病理学者J.F.カーの論文により
「細胞が自ら一定のプロセスを経て死んでいく」
アポトーシスと呼ばれる現象の存在が明らかになる。
この「遺伝子によりプログラムされた細胞の自殺」
は、発表当初は殆ど注目されることはなかった。
当時は「死」について研究を行うことに、意義が
あるとは認められなかったためである。
長い年月を経て、ゲノム解析の研究が進められる中
21世紀に入って初めてアポトーシスのメカニズムが
解明され、注目を受けることになる。
アポトーシスの「細胞が自ら死んでいく」という働きは
単純に生物個体としての死に関する話だけではなく、
たとえば成長過程でヒトの体が形作られていったり、
オタマジャクシがカエルになる時にしっぽがなくなったり
というメカニズムにも関わっている。
生物が形作られる際は、
「細胞を多めに作って、アポトーシスによって
不要な部分を削る」
という過程を経ているということになる。
ヒトの免疫機能も同様で、免疫システムは
体内での遺伝子組み換えにより無数の免疫細胞を
作り出しているが、役目の無いものや有害な可能性の
あるものが生まれる可能性もある。
免疫細胞のうち実に95%が成熟過程で「無用、あるいは有害」
とみなされ、自殺するよう命令を受けてアポトーシスにより
除去されている。これにより健全かつ有用と思われる
免疫細胞のみを体内に残すことが可能となっている。
このように、アポトーシスは単に「死」のみならず、
それを制御することでガンやアルツハイマー、HIV
といった難病に対する新たな治療薬を発見する新しい
手法となりえる可能性を秘めている。
著者の田沼靖一氏はこの分野の研究者であり、
「死」を科学することから、「生死」に対する哲学的な
考察の助けにもなると述べている。
全体の繁栄のために遺伝子が「自ら死ぬ」というところから、
「利己的な遺伝子」を否定しているところが印象的。
新書らしく非常に読みやすいので、
ぼんやりと「生死」について考えたくなった時などに
オススメ。「死」が単に暗いものではなくなるかも。
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